リラックスの方法は様々です。好きな音楽を聴く、お風呂に入る、アロマを炊く、映画を見るなど人によって様々でしょう。
その中でもっとも一般的な方法が「深呼吸」でしょう。実際に緊張するときは「深呼吸するとよい」と言われます。例えば人前に立つ直前などです。これは深呼吸が緊張を解きほぐすからと考えられますが、実際にそのようなことはあるのでしょうか。あるとすればなぜでしょうか。
そこで今回は、深呼吸でリラックス効果が得られる理由と、その効果的な方法について解説します。手軽にリラクゼーション効果を得たい方はぜひ参考になさってください。
国際医療福祉大学で行われ2009年に発表された研究結果では、確かに深呼吸にリラックス効果があるという結論が発表されました。
これは、健常成人女性15名を対象にした実験で、被験者は15分の計算問題を行なった後に、深呼吸をする集団と単に安静にしている集団に分け、その後に唾液アミラーゼの量を図ったものです。
唾液アミラーゼはストレスのバロメーターとされ、深呼吸を行なったグループのほうが分泌量が少なくなったのでした。他にも同様の研究はありますが、ストレスがかかった後の状況では単に安静にしているよりも、積極的に深呼吸を行なった方がリラックス効果が得られる可能性が大きいことが裏付けられたのです。(参照 深呼吸によるストレス緩和効果(古賀麻奈実ら 日本理学療法学術大会 2009(0), H4P3260-H4P3260, 2010 CiNiiホームページ)
また、順天堂大学保険看護学部の公開講座で行われた呼吸についての講義では、同大学の稲冨惠子さんが深呼吸とリラクゼーションの関係について以下のように説明しています。
・深呼吸することにより普段膨らまない肺胞にも新鮮な空気が送られ、O2とCO2のガス交換が活発になり頭がすっきりする。
・自律神経のうち副交感神経を優位にさせ、気持ちが和らぐのが実感される。
・深呼吸で肺胞が膨らむことにより肺の表面から血管拡張物質が分泌され、血圧が抑えられる。
・横隔膜の上下運動により、腸の蠕動運動や血液循環が活発になる(参照PDF)
このような理由から、深呼吸はリラックス効果が得られる方法であると言えるでしょう。
ここで取り上げられた「自律神経」「副交感神経」とは何でしょうか。
人体に多くある神経系統の中で、不随意な身体機能をコントロールするのが自律神経系です。不随意とは人間の状態を正常に整えるために、意思とは関係なく動くという意味です。
例えば心臓や内臓の動き、発汗などは私たちの意思ではコントロールできません。この中で身体を刺激してエネルギーを消費する機能が交感神経系で、反対にエネルギーを節約し、身体を落ち着かせる機能を担うのが副交感神経系です。
緊張は交感神経の作用で、リラックスは副交感神経の作用と思ってください。一日のうちでどちらかが優位になるタイミングがシーソーのように現れ、緊張と弛緩を繰り返しているのです。
不随意運動の中で、ほぼ唯一、人間の意志でコントロールできるものが「呼吸」です。呼吸は一日2万回行われている不随意運動で、例えば睡眠中も体内に必要な酸素が取り込まれるように、意思とは関係なく働いています。
しかし活動中は、意図的に呼吸を早くしたり遅くすることができます。緊張下にあるなど、交感神経が優位になっている場合は浅く速くなっています。これを努めてゆっくり深くすることで副交感神経を優位にすることができるのです。リラックスしたいときは深呼吸を行うとよい、ということの理屈はこのことだったのです。
先ほどの国際医療福祉大学の研究論文では以下のように記しています。
ストレス負荷時では,大脳皮質でストレスと認識された刺激により大脳辺縁系が不安,怒りなどの情動を引き起こし,視床下部へと興奮が伝わった結果,内分泌系や自律神経系に作用し交感神経を刺激したことが考えられる.その結果,交感神経系の指標とされるノルエピネフリンの増幅器として働く唾液アミラーゼの分泌が亢進されたことが考えられる.生理学的に,深呼吸をすると迷走神経が興奮して心拍数減少が認められており,副交感神経活動が優位となるといわれている.
肺はそれ自体は動かす筋肉を持っておらず、その下にある横隔膜や肋骨の間にある肋間筋の動きによって膨張と収縮を繰り返します。
今この画面を見ているようなときは呼吸が浅く細かくなっていませんか? 何かに集中する場合、交感神経が優位になりわずかな横隔膜と肋間筋の動きで浅い呼吸を繰り返しています。
深い呼吸をする場合、息を吸うときには横隔膜はお腹の方まで引き込んで肺を下に膨らませます。息を吐くときには、横隔膜が上にあがり息を押し出しています。横隔膜をできるだけ大きな動きをさせ、深い呼吸をすることを「横隔膜呼吸」とここでは呼びます。(呼吸には必ず横隔膜が関係しているので適切ではないかもしれませんが)
この横隔膜呼吸を行うポイントは以下の3点です。
・まず息を吐き切る。そのことで空気をたくさん吸えるようになる。
・できるだけ大きな腹式呼吸を行うようにする。息を吸う時はできるだけお腹を大きく膨らませ、吐く時は限界までお腹を凹ませる。
・息を吸う時間より吐く時間の方を長くする。具体的には2秒で吸い、2秒息を止め、6秒かけて吐く。
横隔膜の動きをよくするには、腹式呼吸に加え、逆腹式呼吸(吸ったときにお腹を凹ませる)、さらにドローインまでも行うようにします。意識的に横隔膜の動きをコントロールすることを繰り返すことで、無意識でも横隔膜の動きがよくなり、疲労回復、姿勢良化、お腹引き締め、スポーツパフォーマンスアップなどの効果が得られます。
■逆腹式呼吸
息を吸う時にお腹の周囲が縮む呼吸です。スーーーッとゆっくり吸いながらお腹を凹ませていきます。難しいと感じる方は、自然呼吸からハッとかホッと息を吐きます。そこから息を吸うとともにお腹を凹ませていくとうまくいきやすいです。
■自然な呼吸
再度、全身をラクにして自然な呼吸を行います。最初のときと呼吸やお腹の動きの違いはありますか? 確かめてみましょう。
■腹式呼吸
今度は息をゆっくり深く吸いながらお腹を膨らませていきます。膨らみきったら息を吐きながらお腹を凹ませていきます。
※腹式呼吸が難しい方 脱力と深い呼吸が足りない場合が多いです。よくリラックスして深い呼吸を行ってください。カラダを左右に揺すったりしてもかまいません。
※それでも難しい方 一度ベッタリとうつ伏せになってみましょう。再度脱力します。息を吸いながらおへそで床を押し、お腹を膨らませてください。これが腹式呼吸の感覚です。仰向けでも行えるように少し練習しましょう。
■ドローイン(強制呼気)
腹式呼吸を繰り返したのちにそのままドローインを行います。
腹式呼吸の流れのまま、鼻か口で息を細く長く吐きながら、お腹を凹ませていきます。
お腹から空気が出きった!というところでお腹をキープします。息は浅い胸呼吸で繰り返します。最初は10秒キープから。徐々に時間を延ばし30秒を目指してください。
息を細く長く吐き出す時には、おへそ周辺の一点だけを中に引き込むのではなく、お腹の前面を面のまま、ゆっくりじんわりと息を吐きながら少し凹ませ、お腹の圧を高めていきます。
■自然な呼吸
脱力してドローインは終わりです。最後にもう一度自然な呼吸を行って、やる前との変化を感じてみてください。
この呼吸法をマスターすると、椅子に座っている時や立っている時も行うことができます。その時は逆腹式呼吸とセットで行ってください。
何も用いなくてもお伝えしたエクササイズを行えば、深い呼吸と横隔膜の活性化によるメリットを得られます。しかし意識するポイントが多いと感じたのではないでしょうか。
ツールを使用したエクササイズを行うとより手軽かつ効果的に質の良い呼吸が得られます。
その一つとして、ストレッチポール®の上に仰向けで縦乗りし、自然な呼吸を行う方法をご紹介します。
この写真のように、仰向けで寝て脱力します。これにより、背骨がツールにより軽く押されます。ご自分の体重を利用しているので、安全な負荷といえます。
この状態は後頭部や背中、腰が正しい位置になり、本来の姿勢となっています。
胸郭(ろっ骨まわり)は下からストレッチポール®で押され、ご自身の腕の重みで優しくストレッチされています。肩関節まわりの筋肉もゆるめられ、脱力した状態になります。
これによりろっ骨まわりが広がります。床に寝たりマッサージチェアに座ってもこのような状態にはなりません。
ここで左右にユラユラと揺れますと、首、肩、背中周りの筋肉が緩められます。姿勢を形作っている、深層部や細かい筋肉が緩められリラックス状態となるのです。
ろっ骨まわりが広がることで呼吸も深くなります。
ですので、ストレッチポール®の上に乗って自然に呼吸する運動でも呼吸が深くなる効果を感じていただけるのです。(※効果は運動によるもので、感じ方には個人差があります)
可能な方は、ストレッチポール®の上で腹式呼吸や逆腹式呼吸を行います。健常成人に対してこれらの呼吸やその他のコアエクササイズを行なった実験によると、
前後比較をした結果、努力性肺活量は介入前4.0±0.9L、介入後4.1±0.9L(p=0.002)、1秒量は介入前3.4±0.6L、介入後3.5±0.7L(p=0.025)と有意に改善を示した。
という結果が発表されています。(出典:健常成人に対するストレッチポールを使用したエクササイズが呼吸機能に及ぼす効果 馬場慶和ら 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 2016(0), 154-154, 2016)
呼吸によってリラクゼーション効果を得る方法とその原理について解説しました。横隔膜を活用した深呼吸は、副交感神経を優位にして緊張を解きほぐす効果が得られます。
お伝えしたポイントや方法を参考に、手軽にリラクゼーションなさっていただければと思います。