「ぎっくり腰」は「急性腰痛症」ともいわれ、「とにかく急に腰に痛みが生じたものの総称」です。
このため「どこを・なぜ痛めたのか?」に皆さんそれぞれの違いがあって、一様に対処法を決めきる事はできません。
インターネットの検索でよくある「ぎっくり腰 治療法」で注意していただきたいのは、患者さんの状況を見ずに「ぎっくり腰」でまとめられているため、それを行えば良くなるもの・悪くなるものが混在しているという事です。
そこでここでは、ぎっくり腰の種類や治療法などの知識をお伝えします。
実際に月に30人以上さまざまな腰痛の患者さんを診てケアを行っている理学療法士の先生が解説します。痛みが治まって来たときにできる運動もお伝えしていますので、主治医と相談の上ぜひ行ってみてください。
この記事は、今関礼章先生の監修を頂きました。
財団法人福祉医療推進事業団 あかりクリニック(静岡県)/日本コアコンディショニング協会認定マスタートレーナー&講師 他
ぎっくり腰とは急激に起こる腰の激痛です。次のような場合はぎっくり腰といえるでしょう。
・「グキッ」とした感じで腰に激痛が走った
・最初は違和感程度だったがどんどん痛んできて、耐えられないくらいの激痛になった
・急に腰が痛くなって立てない、歩けない
・腰を曲げたり反らす動作ができない
・じっと横になっているとなんとか耐えられるが、他の動作ができない
・痛くて寝返りがうてない
このような方はぎっくり腰です。なるべく早めに整形外科を受診してください。
この記事では、早期回復を進めるために、ぜひしっていただきたい基礎知識や対処法をお伝えしますのでぜひこの記事を読み進めてください。
原因や疾患に心あたりはあったでしょうか。ここからはぎっくり腰になった時にどうすればいいかについて解説します。
まずは安静にすることが大事です。できるだけラクな体勢をとります。痛みが軽減する姿勢をとる事や、コルセットなどを用います。同時にあらたな痛みが発生しないように配慮します。無理に動かしたり、患部を何かにぶつけることがないようにします。モノが落ちてこないようにしたり安全性を確保してください。
寝転がっているのも痛く苦しいほどだったり、寝返り等の姿勢を変える際にも強い痛みがある場合は、整形外科を受診します。
整形外科では、原因や状況により骨折などの可能性を調べるためにレントゲン撮影等をすることもあります。
まずは痛みを抑えるために、痛み止めが処方されることも多いです。ロキソニン、イブプロフェン等の内服薬に加え、湿布薬の処方が、さらにあまりに痛みが強いようなら、ボルタレン座薬など強い座薬の使用も判断されることはあります。
もっとも強力なのは神経ブロック注射で、患部の神経そのものに直接痛みを感じさせないようにします。
まずは冷やします。痛みが強く腫れや赤身がある場合は炎症が起きているので、その炎症を押さえるためです。
冷やし方は保冷材・アイスパック・袋に氷と少量の水を入れたものなどを用います。冷やしなれしていない人はハンドタオルなどを巻いて、ほんのり冷やしていくやり方をお勧めします。
また普段から冷え性があったり、冷えが苦手で緊張してしまう方は、逆に痛みを強く感じてしまう人もいます。この場合もほんのりと冷やすことから始めましょう。
しかしアイシングを行うことで症状が強くなると感じられる方もいます。その場合は無理に冷やす必要はありません。冷やすことで心地よい感覚がある=炎症があるという判断をします。
時間の目安としては1~2時間に1回10分程度冷やします。症状が軽くなっていくと共にほんのり冷やす方法に変えていき、頻度も少なくしていきます。
腰の捻挫等、多くのぎっくり腰は半日から数日で痛みの程度が軽減します。
具体的には、鋭い痛み(ズキズキ、ジンジン)から鈍い痛み(重い、違和感)などに変化し始めたら、急性炎症が沈静化してきています。これはちょうど切り傷でいうと出血が止まりカサブタができた状態をイメージしてください。
こうなってきたら患部に痛みがない範囲で軽く動き始める事が大切です。痛みがない状態から、少し感じる程度までの運動を繰り返します。速く回復しようと思い、激痛に耐えるような運動は行ってはいけません。
最近の報告では、安静の保ちすぎは良くないと言われています。しかし、病態(痛め方)は人それぞれであり、急性炎症が沈静化する(カサブタができる)までは安静を確保する事が重要です。
ぎっくり腰は急に襲ってきた痛みですから、初めての方だと痛みに加えて怖さや不安感があると思います。それらの心理もより痛みを増幅させます。ここではまずぎっくり腰についての基礎知識をお伝えします。
通常の「ぎっくり腰」は急性腰痛症といいます。短期間(2週間〜3ヶ月程度)で回復するものと思ってください。
これとは別に持続性の慢性腰痛症があります。急性ほどは激しい痛みではないですが、整形外科的な治療を行ってもなかなか痛みが消滅しなかったり、3ヶ月を超えて数年のあいだ常に、または時々か特定の姿勢を取り続けた場合に痛む腰痛です。
急性腰痛と慢性腰痛の大きな違いは以下のようなものです。
・急性炎症の症状の有無(安静時や夜間の痛み、めったに経験したことのない鋭い痛み、腰部の腫れや肌が赤くなるなど)
・明らかに痛みが起きた「時」「場所」「どんなもので」「どのように」が説明できる(受傷機転の有無)
・筋肉、筋膜、軟骨、人体、腱、関節などの損傷の有無(組織損傷の有無)
いずれかが「ある」場合は急性腰痛症と判断していいでしょう。
ぎっくり腰を引き起こしている具体的な疾患(病気やケガ)には以下のようなものがあります。
■腰の捻挫
関節包、椎間板、靱帯、筋肉などの一部が引きのばされたり、断裂したりしておこります。原因がはっきりしないことが多い急性の腰痛です。腰部筋筋膜炎や筋膜性疼痛症候群と診断される場合もあります。
痛みがなるべく起きないように安静にしていれば一週間程度で徐々に動けるくらいまでに回復します。
これ以外にレントゲンなどではっきりわかりやすい疾患があります。これらの疾患はぎっくり腰(急性腰痛症)を引き起こす場合も、慢性腰痛症の原因となっている場合もあります。
■椎間板性疼痛(ついかんばんせいとうつう)
押しつぶされた椎間板の内部組織が神経や骨膜に当たることで痛みを発生させています。椎間板ヘルニアも椎間板性疼痛の一種です。
■椎間関節性疼痛(ついかんかんせつせいとうつう)
いろいろな原因がありますが、関節部の骨どうしが当たったりこすれることで痛みを発生させています。
■仙腸関節炎(せんちょうかんせつえん)
仙腸関節は骨盤の仙骨と腸骨の間の関節です。その仙腸関節周辺の炎症による痛みです。腰の背骨の下、尾骨より上のあたりです。
■圧迫骨折
腰の背骨が上下から圧迫され間の骨にヒビが入ったり折れる骨折です。骨粗しょう症などで骨がもろくなっていると起こりやすいです。
ここでは各疾患ごとの特徴をお伝えします。どれにも当てはまらなかったり、分かりにくい場合は「腰の捻挫」の可能性が高いです。いずれにしても整形外科を受診して疾患を明確にしてください。
・椎間板性疼痛=立っていると痛みが少なく歩くことも可能です。むしろ座っている方がつらいと感じます。ひねると痛みをおぼえることが多いです。
・椎間関節性疼痛=後ろに反ったり横に傾けると痛みを感じます。
・仙腸関節痛=体重が乗ると痛みをおぼえます。また足を大きく動かしても痛みます。
・圧迫骨折=じっとしていても痛く、叩かれるとゴンゴンやジンジンと響きます。
このように痛めた箇所によって症状や楽になる姿勢が異なります。そのため治療は痛めた箇所や症状に合わせ選択する必要があるので、むやみやたらに動かして治すのは注意が必要です。
椎間板ヘルニアが起きており、神経を圧迫するものが代表的です。もしくははっきりした原因がなく「坐骨神経痛」という呼び名でまとめられてしまうことがあります。
症状は、
・あおむけで足をまっすぐ挙げると痺れる・痛む、症状の増悪がある
・ずっと同じ部位の痛みやしびれが1日中続く
・ひどく痛んだり、痛みがなくなったりの差があまりない
・排尿・排便のタイミングや頻度に変化を感じる
この様に、腰の神経を痛めると腰やお尻、脚部に症状が出ることが特徴的であり、注意が必要です。
坐骨神経痛は、原因がはっきりしない腰やお尻、脚部の痛みやしびれに対する呼び名となってしまっている傾向があると感じます。原因がはっきりしない坐骨神経痛は日頃のケアで改善する可能性があります。詳しくは別記事「坐骨神経痛ストレッチ・しびれや痛みの原因と今できる対処法」をご覧ください。
ここでは原因のはっきりしないぎっくり腰=腰の捻挫の原因について解説します。原因を知って再発を防止しましょう。
ぎっくり腰の原因は以下のようなものです。
・急激に腰に負担がかかった
・カラダが温まっていないのに、負荷をかけた
・日頃行わない運動を行った
・腰を中心にした深層筋が固くなっていたり、衰えている
・呼吸が浅い
・筋肉の使い方に偏りがある
・静止時や動作時の姿勢が悪い
ですので日頃から呼吸エクササイズや体幹トレーニング、美姿勢のための取り組みを行うことが重要です。
ぎっくり腰は、一度回復しても再発しやすい疾患です。ノドもと過ぎれば…ではなくぜひ習慣として取り組みましょう。
痛みのない時期に体幹を鍛えるトレーニングを行い、発生しにくい強い腰を作ります。しかし、最低でも症状消失後2-4週は前章でお伝えした治療体操を中心に行ってください。
元の生活が十分にできるようになり、腰に対する違和感・痛み・恐怖心が消失したうえで下記の運動を行いましょう。
■キャットバック・ストレッチ
猫が寝起きに伸びをするような動きをイメージしてください。 背骨の深層筋肉のストレッチと、体幹筋の活性化エクササイズです。
肩とももの付け根から、床に垂直になるように手・ヒザをつき四つんばいになります。
1.背中を丸めながら天井へ引き上げます。この時に息を細く吐きながら、おへそに顔が近づいていくようにします。背中が丸められることで背骨にそった脊柱起立筋へのストレッチがかかります。
2.息を吸いながら、背中を反らしつつ、上と前に伸びていきます。前を見るように目線を上げ、首を前にのばしていきます。両手で床をじんわりと強く押していってください。
1と2を交互に繰り返しましょう。3〜5セット。
また、同様の状態から、左右の足のつまさきを覗き込むように上半身を左右に曲げていきます。腹斜筋へのストレッチがかかります。 正面に戻り、反対側も行います。3〜5セット。
■プランク
腕立て伏せの姿勢から、肩の下にヒジが来るようにして床にヒジをつきます。頭からおしりまでが一直線になるようにしてお腹が落ちないように姿勢をキープ。呼吸は自然に繰り返してください。30~60秒を目安に行いましょう。
アレンジメニュー・ラクにできるようになったら、片足をつま先まで伸ばして、床から20cm程度浮かしてみましょう。さらにお腹を鍛えられる運動になります。
■サイドプランク
ヒザを90度に曲げ、肩の下にヒジが来るように床につけ横向けに寝ます。このとき、ヒジの角度は90度にしましょう。おなかが落ちないように頭からおしりまで一直線を維持して30~60秒を目安に姿勢を保ちましょう。
アレンジメニュー・脚をカラダと一直線にし、上になっているヒザを床から上げます。運動の強さが高まります。
■逆プランク
足を伸ばして床に座ります。
肩の下にヒジが来るように床につき鎖骨からかかとまでが一直線になるようにしておしりを床から持ち上げます。このとき、目線はつま先を見るようにします。30~60秒を目安に行いましょう。
■ハンド&ニー
キャットバックの体勢から、お腹に力を入れて片腕をあげます。そのまま反対の脚をあげます(右腕をあげたら、左脚をあげる)。10秒キープして、脚と腕をおろし、反対側も行います。2〜3セットを行ってください。
詳しくは別記事「腰痛ストレッチ・7つの筋肉を活用して慢性腰痛にサヨナラ!」をご覧ください。
痛みが治まれば完治ではありません。より早く痛みを引かせ、それまでの日常生活を送ることができるようにし、再発を防止する取り組みを伝えてくれる病院が良い病院です。
痛み止めの薬(内服薬や湿等)と「安静にしておいてください」というアドバイスだけの病院は少々残念です。症状が軽快してきたときにどのような運動・リハビリから始めたらよいか説明・指導をしてくれる病院を受診する事をお勧めします。
つまり「ぎっくり腰」については、1回の診察で終わる病院が良いというわけではなく、急性期と回復期で適切な指示をしてくれる病院が良いということになります。
ぎっくり腰になった時の対処法をお伝えしました。腰の捻挫であれば多くの場合1週間程度すると痛みが軽減してきます。そうでない疾患の場合は主治医とよく相談して適切な治療を行ってください。
またぎっくり腰を繰り返すと、前兆を感じる場合があります。
・朝晩の腰のにぶい痛みや違和感
・季節の変わり目のにぶい痛みや違和感
・腰がつっぱる感じや重だるい感じがする
・下半身にしびれを感じる
・前かがみや反る動きがしにくくなる
など、人によって様々ですがこのようなことを感じていて、ある瞬間にぎっくり腰を発症するというものです。
それはくしゃみなどでも起こりえます。深層筋や姿勢を保持する筋肉が衰えている可能性がありますので、ぜひお伝えした根本対策をとってください。
この記事でお伝えしたことがぎっくり腰解消につながれば幸いです。