長時間座っていると肩がこり、首まで痛くなる。そんな経験はありませんか?
今回は、2時間ほど座ると首・肩が痛くなる50代の方の事例をご紹介します。身体を確認すると、巻き肩の傾向と体幹に力が入りにくい状態が見られました。
身体全体の動きに着目したケアを続けたところ、痛みが軽減し、日常生活にも変化がありました。
この記事では、肩こりと体幹機能の関係を、研究報告とともに解説します。
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この記事を書いた人
田端 義幸
理学療法士。JCCAアドバンストレーナー、JCCA B級講師、ヨガインストラクターRYT200修了。
整形外科を中心に介護・介護予防の分野に従事。10年以上の臨床経験を持ち、延べ3万人以上の施術に携わる。解剖学・運動学の知識と臨床経験をもとに、日常生活の動きやすさを重視した身体づくりに取り組んでいる。
今回ご紹介するのは、50代の主婦の方です。
日常生活ではお子さんを抱っこする機会が多く、学校行事などで長時間座って過ごすこともありました。
以前はご自身で筋力トレーニングに取り組んでおり、肩関節周囲炎の既往もありました。また、身体の不調に対しては、自分でストレッチを行うなどの対策をされていました。
そんな中、お悩みだったのが、「2時間くらい座って話を聞いていると、肩こりがひどくなって首や肩が痛くなる」ということでした。
学校行事や会議、講習会など、長時間座り続けなければならない場面は日常生活にもあります。座っている間も、頭や上半身を支える筋肉は働いています。同じ姿勢が続くことで、首や肩につらさを感じる場合があります。
では、こうした肩こりは、肩だけをほぐせば十分なのでしょうか。座っている間も、頭や上半身を支える筋肉は働いています。同じ姿勢が続くと、首や肩のつらさを感じることがあります。
ここで注目したのが、肩甲骨と胸郭、そして体幹の働きです。胸郭とは、胸椎(背骨の胸の部分)や肋骨、胸骨などで構成される部分です。
肩甲骨は胸郭の上を滑るように動き、腕を上げたり前に伸ばしたりする動作を助けています。また、首から肩にかけて広がる僧帽筋なども、肩甲骨の動きや姿勢の保持に関わっています。
つまり、首や肩だけでなく、背骨や胸郭、体幹を含めた身体全体の協調が大切なのです。ただし、巻き肩や体幹機能の低下が、必ず肩こりを引き起こすわけではありません。
痛みには活動量、睡眠、ストレスなども関係します。そのため、姿勢だけで原因を判断せず、身体の状態や生活習慣を総合的に確認する必要があります。
体幹には、腹直筋や腹横筋などの腹筋群、背骨を支える多裂筋、呼吸に関わる横隔膜、骨盤底筋群など、さまざまな筋肉が存在します。
これらの筋肉は、身体を大きく動かすときだけでなく、姿勢を保つときにも働きます。
例えば、椅子に座って腕を前に伸ばす動作。
腕だけを動かしているように感じますが、上半身の位置を保つために体幹の筋肉も活動しています。
体幹は、手足を動かすための土台としても働いているのです。
体幹の筋力や持久力、動きを調整する能力が十分に発揮されないと、姿勢や動作に影響する可能性があります。
ただし、体幹を鍛えれば肩こりが必ず改善するという意味ではありません。
2024年に学術誌『Applied Ergonomics』に掲載されたシステマティックレビュー・メタ解析では、慢性的な首の痛みがあるオフィスワーカーに対する運動の効果が検討されました。
8件のランダム化比較試験を分析した結果、首・肩・肩甲骨周囲の筋力トレーニングが、痛みや日常生活への支障を軽減する可能性が報告されています[1]。
ただし、研究全体のエビデンスの確実性は低く、体幹トレーニング単独の効果を証明したものではありません。それでも、首や肩の不調に対して、身体を動かすことも選択肢になると考える参考になります。
今回の方には、まず手技療法で身体を動かしやすい状態を目指し、その後、簡単な運動療法や運動機器を用いて、体幹を意識した動きに取り組んでいただきました。いきなり強い筋力トレーニングを行うのではなく、無理のない動作から始め、身体を自分で動かす感覚を大切にしました。
体幹ケアでは「緩・締・動」という考え方があります。
緩:身体を緩める
筋肉の緊張を和らげ、動きやすい状態を目指します。
締:体幹を安定させる
体幹の筋肉を働かせ、姿勢や動作を支える機能を高めることを目指します。
動:身体を連動させる
体幹と手足を協調させ、日常生活の動作につなげていきます。

こうした段階を、その方の身体の状態に合わせて進めることが大切です。
取り組みを続ける中で、首・肩の痛みは以前より軽減しました。
そして、ご本人からこんな言葉がありました。
「前より疲れなくなって、子どもと公園に行くのも億劫ではなくなった」
身体がつらいと、外出や家族との時間をためらうこともあります。今回の方は、痛みだけでなく、日常生活での活動しやすさにも変化を感じていました。
もちろん、手技療法や運動療法などを組み合わせた事例であり、体幹への介入だけが変化の原因とは断定できません。しかし、身体の状態を見直すことが、暮らしの「できる」を増やすきっかけになったと考えられます。
世界保健機関(WHO)は、座って過ごす時間を減らし、軽い身体活動に置き換えることにも健康上の利点があるとしています[2]。
まずは、次のような簡単な動きから始めてみましょう。
両足を床につけ、背中を無理に反らさず楽に座ります。鼻から息を吸い、口からゆっくり吐く呼吸を5回ほど繰り返しましょう。
両腕の力を抜き、肩を後ろに5〜10回ほどゆっくり回します。胸を強く張る必要はありません。痛みのない範囲で行いましょう。
長時間座る場合は、合間に立ち上がって歩いたり、姿勢を変えたりしましょう。大切なのは、特定の姿勢を固め続けることではなく、身体を適度に動かすことです。
これらは運動習慣をつくるための簡単な取り組みであり、肩こりの治療効果を保証するものではありません。
自宅での運動を続けたい方には、ストレッチポール®やアシスティック®などの体幹ケアツールも選択肢になります。身体の状態や目的に合わせて使用することが大切です。
また、運動方法に迷う場合は、専門のトレーナーに相談するのもよいでしょう。
今回の50代の方は、長時間座ると首や肩が痛くなることに悩んでいました。
身体全体の状態を確認し、手技療法と運動療法に取り組んだ結果、痛みが軽減し、子どもと公園に行くことも以前ほど億劫ではなくなったそうです。
首や肩の不調があるときは、その部分だけでなく、体幹や身体全体の使い方にも目を向けてみましょう。
痛みを楽にすることの先に、やりたいことができる毎日がある。無理のない体幹ケアから、身体を動かす習慣を始めてみませんか。
[1]Jones LB, Jadhakhan F, Falla D. (2024). The influence of exercise on pain, disability and quality of life in office workers with chronic neck pain: A systematic review and meta-analysis. Applied Ergonomics, 117, 104216.
https://doi.org/10.1016/j.apergo.2023.104216
[2]World Health Organization. (2020). WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour.
https://www.who.int/publications/i/item/9789240015128
※本記事は一事例を紹介するもので、同様の結果を保証するものではありません。強い痛み、しびれ、筋力低下、症状が続く場合は医療機関へご相談ください。